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「ランプのひかり」



小川の上を 通ってきた すずしい風が やさしく ほおに さわります。

水と水の ふれる音と 鳥のなき声が しずかに聞こえてきます。

草を食べおわった動物たちが 日なたにすわり ねむりそうです。

何も かわらない、これからも かわることのない風景が ここには広がっています。


「おはよう。いい天気だね。ランプは調子いいよ」

ランプを ならべ始めた おじいさんに 村の人たちは 笑顔で声をかけていきます。

マティは おじいさんの となりに座ると、売り物のランプの横に、きれいな色の 石や木の実を、かんがえながら ならべ はじめました。

中でも、気に入った物があると かならず笑顔で おじいさんの手のひらに おきました。 

「ありがとう。ふしぎだね。マティがくれる物は、おじいさんには ひかって見えて 宝物にかわるんだよ。ふしぎだね」

おじいさんは ここでランプを売ることが とても好きでした。




家に帰ると、おじいさんはランプを作りはじめます。 

じょうぶで長く使えるように。キズや よごれが付かないように。見えない所ほど
ていねいに。

このランプは どんな人が使うのかわかりません。

でも、まったく知らない人のための やさしさは、使ってくれる人に、必ず つたわることを、おじいさんは知っていました。

そして何日かかけて、ランプが一つ でき上がると ためしに火を ともしてみます。

小さく フワリと生まれた そのひかりは、ゆらぎながら まわりを やわらかく つつみこみました。

その やさしさと小さな体にある力強さは、人や動物たちの命と おなじようでした。

おじいさんは思っていました。それぞれの家で、家族みんなが あつまる夜には、このランプのひかりの中で、楽しく話しをしてくれたら うれしいと。 



おじいさんは、このごろ いつものランプ作りが おわったあとにも、何かを作っていました。

「手の大きさはこれくらいだったかな」

寸法を はかりながら材料を きっている おじいさんの顔は、とても楽しそうで時間がたつのもわすれているようです。

「ケガをしないように角も丸めておこう」

「そうだ。マティの好きな色もぬろう」

そして ついに出来上がりました。

「うん。これでもっとたくさんの宝物を さがせるよ」

それはマティの手の大きさにあった、シャベルとバケツでした。






次の日、いつもの場所でランプを ならべていると空に ゆっくりと雨雲が やってきました。

雨雲がポツポツと雨をおとすと、大地は水をすいこみ、植物は葉を広げながら せのびを はじめます。

「よかったね。ひさしぶりの雨だから、みんなうれしそうだね」

おじいさんとマティは、 水の かおりを感じながら、みるみる こい色に かわっていく けしきを、うれしそうに見ていました。

そしてランプを荷車に もどすと、近くの丘に向かいました。

そこには動物たちや、虫たちと いっしょに くらしている、大きな木がすんでいます。 

おじいさんとマティは、雨が ふった時は、この木の下でみんなと話をしてすごします。


「おじいさんとマティも来てくれたし、水たまおとしが見たいな」

リスは、大きな木に おねがいすると、大きな木は、にこにこしながら一番上の、雨つぶの ついた葉っぱを一枚ゆっくり かたむけました。

ポトリ ススー ポトリ

大きな木は、ひとつぶの雨水を、葉っぱから葉っぱへ、まるで生き物のように落としていきます。

「ほらそこだよ。次はそこに来たよ」

リスたちは水のつぶが落ちていくのを、楽しそうに おいかけます。

そして葉の上にいた、かたつむりを うまくよけたのを見た小鳥は、とてもおどろき、みんなに つたえようと飛びまわりました。

「まだかな。もう来るかな」

さいごは、みんなで、おじいさんの手のひらをじっと見ています。

そして、うまく雨つぶが手のひらに落ちると、みんなは「すごい!すごい!」といい、リスはおじいさんの肩の上で ちゅうがえりして よろこびました。


「今日はずっと雨がふるから、ゆっくりしていくといいよ」大きな木は、おじいさんとマティに おしえてくれました。







その夜、いつものようにおじいさんがランプを作っているとマティは言いました。

「明日は、ぼくだけで ランプを うりに行ってもいいかな。おじいさんは家でゆっくりランプを作っていてね」

「いいのかい。じゃあ、おねがいしようかな」

おじいさんは、とっさに ふつうに返事をしましたが、自分の考えをしっかり言えるようになったマティにおどろいていました。そして心の中で、たのもしくなったねと言っていました。


マティは、夜おそくまでランプを作るのは たいへんだと、いつも思っていたのです。

それに明日は、おじいさんの たんじょう日なのです。

一つでも多くランプを売って、大好きなおじいさんに ないしょでプレゼントを買ってあげたかったのです。

マティは、そのために ずっと前から、おじいさんは何か ほしい物はないのか、気にして見ていました。

でも、何も ほしがるようすがないので、それとなく聞いてみたのです。

「おじいさんって、何か ほしい物はないのかなぁ?」

「ほしい物かい?うーん。とくに、ほしい物はないかな」

「どんな物よりもマティと、いっしょに くらせれば、それで十分だよ」

(そうなんだ。でも何かプレゼントしたいな)

そうだ。おじいさんは、さむい日でも、ずっと外でランプを売っているから、何か あたたかくなる物をあげよう。

・・・ぼうしとか、どうかな。急に雨や雪が ふってきて、かぜをひいてしまうと たいへんだからね。そうだ。そうしよう。

それからケーキもね。明日くらい、ぜいたくしてもいいよね。いっしょに食べるの楽しみだな。





次の日の朝、ワクワクして早く起きてしまったマティは早速一人で準備しはじめました。

「そうだ、おじいさんがつくってくれた このシャベルとバケツも持って行こう。これなら、さみしくないよね」






マティは、いつもの場所について、ランプを 売りはじめました。でも、なかなか売れません。

「たくさん売れれば、おじいさんにいい物が買えるのにな」

「そうだ。町には、たくさんの人たちがいるって聞いたことがある。たくさん人がいれば、たくさんランプが売れるはずだよね」

マティはランプを荷車にもどし、いっしょにいこうねと、シャベルとバケツに ほほえみながら話かけると、町に向かって歩き出しました。






長い時間歩き、大きな橋を渡ると、急にとても高い建物や、多くの車と人が目にうつりました。

「こんなにたくさんの人が・・・。ようし。ここなら、いっぱい売れそうだよ」

道の横に布をしき、ランプを ていねいに ならべると、いつものように笑顔で売りはじめました。

「ランプはいりませんか。じょうぶで やさしい光のランプです」


たくさんの人たちが、とても いそがしそうに、目の前を足早に通りすぎて行きます。

ほこりが ついてしまったランプを、ひとつひとつ、ていねいに ふきながらマティは思っていました。

「おかしいなぁ。どうして だれも見てもくれないんだろう・・・。ちがう通りに うつってみようかな」




「どこがいいかな」

荷車を引きながら まわりを きょろきょろと見ていると、大きなお店の中に同じようなランプがあるのを ぐうぜん見つけました。

「ランプが売られているね」

少しうれしくなったマティは、お店に入ると、たなのすみに 一つだけ置いてあったランプを、そっと手に取り見てみました。


マティは みるみる悲しい顔に かわっていきました。


ほこりのついた そのランプは、すきまがたくさんあり、とても うすい材料で かんたんに作られてしまっていたのです。

(なんでこんなことに・・・。これではすぐに こわれて使えなくなってしまうよ。かわいそうに・・・)

すると、店の おくの とびらが開く音がして、高そうな服を着た男の人が出て来ました。

「あっ、村でランプを売っている子じゃないか」 

その お店の人はマティの顔を見て言いました。

「前に村に行った時に、たまたま見かけたんだ。あの時はおどろいた」

「おどろいた?」

「そりゃあ おどろくさ。だって となりにいた、おじいさんって、昔はこの店の えらい人だった人じゃないか」

「えっ、この大きなお店の・・・」

「ああそうさ。聞いてなかったのか?」

「・・・・」

「でも売り物のランプも、工場でランプを作る人たちも、使いすてにして、もっともっと もうけようとした時に、一人で反対したんだ」

「何も言わずに、おれのように だまっておけば、いいくらしが出来たのにさ」

「まあ今となっては、ランプなんて古くさくて ふべんな物は、もう必要ないけどな」

早口でそう言うと、ランプを見つめていたマティの顔は見ず、すぐ背を向けて行ってしまいました。

マティは、そのランプの ほこりを ハンカチで そっとふいてあげると、何かを思いながら外に出ました。


「早くケーキとプレゼントの ぼうしを買って帰ろう・・・」

それからいくつかのお店を、いそいで見て回りました。

けれども、どの店の一番安い物でも、この日のために ためていた おこずかいより ずっと高い物でした。

(どうしよう。買えない・・・。どうしよう)

悲しい顔をしたマティの目に、荷車にぶらさがっているシャベルとバケツがうつりました。

「そうだ・・・。おじいさんは、ぼくに シャベルとバケツを作ってくれたんだ。ぼくもそうしよう!」






そのころ、おじいさんは家でランプを作っていました。

「今日はマティのおかげで、とてもはかどったな。もう、もどってくる時間だからむかえに行くとしょう」


おじいさんは歩きながら思っていました。

「そろそろ、ランプ作りを、少しずつ おしえてあげよう。とても思いやりのある子だから、きっと ていねいに、いいランプを作るだろうね」

おじいさんは、大好きなマティと いっしょにランプを作ることを、ずっと楽しみにしていたのです。


そんなことを楽しく考えながら歩いていると、いつもの場所が、もう見えてきました。

しかし まわりを見回しても見つかりません。

(どうしたんだろう・・・)

すると丘のほうでカサカサと大きな木の葉が かさなりあう音が聞こえました。

「マティなら むこうの方に行くのを見かけたよ」

大きな木が さした方向を見て、おじいさんは おどろきました。

ありがとうと、大きな木に言うと、おじいさんは町に向かって歩き出しました。

歩く早さは だんだん早くなり、ついに走りはじめました。

(町に行くのは はじめてのはず。早く行かないと・・・)






やっと大きな橋を渡って町に着くと、遠くに荷車が、かすかに見えました。

「マティー!」

何か悪い予感がしていたおじいさんは、走りながら声を ふりしぼって よびました。

でも、まわりの そうおんが大きくて、マティには聞こえていません。

そして、そのあと すぐに、たくさんの荷物をつんだ車が、カーブをまがりきれず、マティにすごいスピードで近づいていくのが見えたのです。

キキキー

「あぶない!マティ!」



それは、あっと言う間の事でした。






「・・・おじいさん、ごめんね。ケーキは買えなかったよ・・・」


「今日の たんじょう日には まにあわないけど、この毛糸でね、あったかい帽子を作るからね。少し まっていてね・・・」


「おじいさんがくれた このシャベルとバケツ、ずっと大切にしていたんだよ。
でも、つぶれてしまったね。  ごめんね・・・」 


「おじいさん 大好きな おじいさん・・・。 ありがとう・・・」








いつものように空は青く広がっています。 

そこへ、ひとすじの白い けむりが上がっていきます。

空と けむりは、ゆっくり まざりあい、 けむりは見えなくなりました。


おじいさんは、おそうしきで使った火を、ランプにそっと うつしました。

(帰ろうね。いっしょに家に帰ろうね)

そして、ランプを むねに だきしめ、もって帰りました。



家につき、ランプの火を だんろにうづすと、ゆっくりと もえ広がり、おじいさんを やさしくてらし、あたためてくれました。


それからというもの、おじいさんは、だんろの前のイスに、ずっと すわっていました。

ろくに食べることもせず、ねむることもせず。

マティが買ってくれた毛糸をひざにおいて・・・。





その日も、おじいさんは、だんろの前に すわっていました。

やせてしまった体と しらがで、おじいさんは べつ人のようです。

たまに うっすらと目をぬらす涙だけが、生きているあかしでした。

朝から雨がふり、しずかな部屋の中には雨音だけがひびいています。

さらに雨音が強くなってきたその時です。


「・・・ ・・・」


雨音にまざって、だんろの方から人の声のような音が聞こえました。

(マティかい・・・。お帰り・・・)

おじいさんは自分の体の中で声を出すと、目を すこし開きました。

しかし何かを思うと、体の力は すわっているイスに すべて落ちていき、目も心の とびらもまた閉まっていきました。 



それから少しして、雨音が終わり、屋根から落ちる雨水が、しずくになった時、また だんろの方で何かが聞こえました。


「・・・おじいさん、おじいさん」


おじいさんは、こんどは心の声も でないほど、とても おどろきました。

はっきりと聞こえたのです。

マティの声ではなかったのですが、はっきりと聞こえたのです。

そして、おじいさんは、子供の時にお母さんが ねむる前によく話してくれた “ひかりのこども” のお話をすぐに思い出したのです。

だんろの火は、ユラユラとゆれて、大きくなったり小さくなったり、ソワソワしておちつかない ようすです。

「だいじょうぶ。ここにいてもいいんだよ」

おじいさんは、ほほえみながら、そっと だんろに木を いれてあげました。

ひかりのこどもはうれしそうに もえだしました








おじいさんは、ひかりのこどもと くらしはじめてから、少しずつ話をしたり、ふつうに食事をすることが出来るようになってきました。

そして、ひかりのこどもが消えてしまわないように、毎日たき木をひろいに、外にも行くようになりました。

「おじいさん、いっしょに さんぽにつれて行ってくれる?」

おじいさんは、何でも見たがったり知りたがる ひかりのこどもを、ランプにうつして外につれて行ってあげました。

あつい日でも、だんろの火をずっとつけていたり、昼間でもランプに火をつけて歩いているおじいさんを見て、まわりの人たちは とても心配そうでした。






ある日、おじいさんは、ひかりのこどもに、町につれて行ってと たのまれました。

マティのことがあってから、町に行けなくなっていた おじいさんは、ひかりのこどもと いっしょなら行けるかもしれないと、勇気を出して行くことにしました。




大きな橋をわたり、はじめて、ひかりのこどもは町につきました。


地面の土は見えず、樹木ではなく電柱が たくさん立ち並んでいます。

空は灰色で、建ちならんだ高い建物の形に、切り取られてしまっています。

道のはしには、すてられてしまった物たち。

生き物といえば、足早にいそぐ、表情のない人間しかいませんでした。


それを見たランプの中の ひかりのこどもは、こわがって体をブルブルと ふるわせています。


「どうしたのここは・・・。どうしてこうなってしまったの・・・」

「・・・もういいだろう。帰ろうね」

ひかりのこどもは落ち着いて まわりをもう一度見ると、おじいさんに聞きました。


「ここには、どうして土がないの?」


「えっ。ああ、土の上に、この かたい石のような物を しいてしまっているんだよ」


「どうして? 草やアリたちが すめないよ」


「車がたくさん早く走れるからだよ」


「どうして、たくさん早く走らなくてはだめなの?」


「たくさん早く仕事をした方が、たくさんお金を もらえるからだよ」


「そんなにお金をたくさんもらって、どうするの?」


「・・・好きな物を買ったり食べたり、楽しい事をしたいんじゃないかな」 


「・・・・。でもどうして、みんな楽しそうではないの?」 


「動物たちや、木や虫たちには、何か楽しいことはあるの?」



そして、ネクタイをつけ 足早に あるいている人たちを見て、ひかりのこどもはいいました。


「どうして あの人たちは、人間なのに首にひもを まかれてしまっているの?」






雨は ふっていませんでしたが、おじいさんは丘の上の 大きな木に向かっていました。

雨やどりをする時と同じようにすわり、手のひらと背中で大きな木にふれると、ゆっくり上を見上げました。

年おいて、葉っぱが少なくなった その大きな木は、しずかにじっとおじいさんの心の思いを うけ入れてくれました。





おじいさんは、またランプを作りはじめました。前にもまして心をこめて、ていねいに。


そして数日後、出来上がったランプを持って町に行きました。


一番手前の家につくと心臓がとてもドキドキしはじめ、なかなかドアをノックすることができませんでした。 

やはり、やめたほうがいいんじゃないかと思ってしまったその時です。 


目の前にマティの笑顔が、ぱっと、いっしゅん 見えたのです。

(そうだね。マティ。・・・ありがとう)


おじいさんは勇気を出してドアをノックしました。

「こんにちは」

おじいさんが、にこやかに声をかけるとドアが少しだけ開きました。

そしてドアごしに、こちらをじろっと見ると、家の人は言いました。

「なにも買う物はありません。帰ってください」

そう言うと、すぐにドアは しまりました。

その冷たい、心のない言い方は、おじいさんの胸をしめつけました。


次の家の前に行き、ふかく息をすって はいて、心を おちつけてからドアをノックしました。

返事もなくドアも開きません。

少したって、もう一度ノックをすると、ドアが開き、めんどうくさそうな顔をした男の人が出てきました。

「こんにちは」

「・・・・なにか用か」

「あの・・・お金は けっこうですので、ランプをここに つけさせてくれませんか?」

おじいさんは、ていねいに言いました。

「金はいらない? そんなだましもんくに、ひっかかるわけないだろう!」

急におこり出した その男の人は、うたぐりぶかい目で、おじいさんを じろっと見ました。

「だましているわけでは・・・、だましているわけではないんです。もらっていただけるだけでいいんです」

「そんなものいらない。帰れ」

それでも、おじいさんは頭をさげて、なんども たのみました。

「でも、ランプをつけるには油がいるじゃないか。そんな、めんどうなことをしている、ひまも、金もないんだよ!」

「油は私が入れにくるので、入り口の横に、このランプを つけさせてくれませんか」

「・・・まあ、こっちが手間や、金がかからないなら、べつにいいけどさ。あとから言ってきても、いっさい金は はらわないからな」

と言うと、すぐにドアを しめてしまいました。

「ありがとうございます」


おじいさんは、その家の入り口横の、雨がふっても ぬれないところに、ランプをつけました。

そして、そっとランプに火をうつすと、やさしく、やわらかい光が、その家を てらしました。

おじいさんは むねに手をあて、(よかった。もらってくれて よかった。)と思っていました。



それからも、おじいさんはランプを作ると町に行き、家につけさせてもらえるように、いっけん、いっけん、たのみました。

みんな最初は、うたぐりぶかい目で、おじいさんを見ていましたが、お金がかからないと聞くと、もらいはじめました。

そして町には、ランプのひかりが少しずつ ふえていきました。

おじいさんは、昼は町の人たちにあげた ランプの油入れや、新しくランプをつけさせてくれる家をさがし、夜はランプをつくりました。

ひかりのこどもは、大変そうな おじいさんを見て、たおれてしまわないか心配でした。






「こんにちは。今日もいい天気ですね」

おじいさんは、ランプの油を入れにいった時、町の人たちに笑顔であいさつをします。

最初は、おじいさんが、あいさつをしても返事はありませんでした。

でも、毎日、ランプの手入れをしにくる おじいさんを見て、このごろは、町の人たちも少しずつ、あいさつをしてくれるようになってきました。

おじいさんにとって、そのことは、とてもうれしいことでした。






ある日の夜。おじいさんは、すごい風と雨の音で、目がさめました。


台風が来たのです。


「たいへんだ!早くランプを守りにいかないと!」

おじいさんは、あわてて着がえると、町に走り出しました。


風と雨は、どんどん強くなります。

「はやく行かないとランプの火が消えてしまう」

おじいさんは、足がもつれて、とちゅう何度もころんでしまいました。

それでも、けがをした足をひきずって、なんとか町が見えてきました。


でも、ランプのひかりは見えませんでした。

「きえてしまっている・・・。ランプの火が、きえてしまっている・・・」

おじいさんは、悲しさで、いっしゅん立ちすくみましたが、すぐにまた走りはじめました。

「はやくランプを、たすけてあげないと・・・」



風と雨は、どんどん、はげしくなってきました。

それでも、かまわずに、おじいさんは、強い風で おちて、こわれてしまったであろうランプを、ひっしに さがし続けました。


「ランプがない・・・。かわいそうに、もっと遠くにとばされていってしまったんだ・・・」

さらに遠くまで、さがしに行こうとした そのときです。

家の方から、人の声が、かすかに聞こえました。

おじいさんは、なにげに窓から家の中を見ました。


すると、そこには、火のついたランプが、テーブルの上に おかれていたのです。

窓に雨がうちつけられ見えずらかったのですが、たしかにランプをかこんで、家族みんなで楽しそうに話をしているのが見えたのです。


家の人たちは、おじいさんのランプを心配して、中に入れてくれたのでした。


それは、その家だけでなく、すべての家でのことでした・・・。






それからは、ランプの油入れや手入れも、町の人たちが自分でやるようになってきました。

そして、人々の表情も、前にくらべると、とても、おだやかにかわり、見知らぬ人どうしでもほがらかに、あいさつするようになっていました。

おじいさんは、町を さんぽしながら、ランプの中の ひかりのこどもに言いました。

「きっともうすぐ、ひかりのこどもも、町の人たちと話ができるだろうね」

「えっ、ほんとうに! それは、楽しみだなぁ」


おじいさんは気がつきはじめていました。

ひかりのこどもの声や、しゃべり方が、マティと にてきていることに。






その日の夜、だんろの中の、ひかりのこどもは、おじいさんに聞きました。

「どうして、ぼくが、もうすぐ町の人たちと、お話ができるってわかったの?」

おじいさんは、だんろの横のイスに、ゆっくり すわりました。

そして、ひかりのこどもを、やさしく見つめながら話はじめました。

「おじいさんが子供のころに、おとうさんや おかあさんが、ねる前に よく お話をしてくれたんだよ」

「なかでも好きだったのが ”ひかりのこども” のお話だったんだよ」

「ふぅん。そのお話は、どんなお話だったの?」

「そのお話はね。自分いがいの人だけではなく、すべての動物や、植物や、物の気持ちまでも わかろうとした人は、ひかりのこどもと話ができるようになる というお話しだよ」

「だから、だんろから、はじめて ひかりのこどもの声を聞いたとき、あのお話は本当のことだったんだと思ったんだよ」

「はじめから、まったくの悪い人というのは、けっしていないんだよ。なにか、きっかけがあれば、やさしい気持ちを思いだすんだよ」

「おじいさんは、その思い出すきっかけを、少しだけ、つくっただけなんだよ」


それから、おじいさんは自分の子供のころの話しや、大好きだった家族の話を、楽しそうにしました。

おじいさんが、とても楽しそうに話すので、ひかりのこどもも、楽しく しあわせな気持ちになりました。

そして、話し終わると、おじいさんは、ほほえみながら、ひかりのこどもを見て、ゆっくりと目をとじました。

「ねむってしまったね」

ひかりのこどもも、つられて、ねむりはじめました。






少しの時間がたち、ひかりのこどもは、さきに目をさました。

「おじいさん、そんなところで長くねむってしまうと、かぜをひいてしまうよ」

いつもは声をかけると、かならず目をさましていたのですが おきません。

そして、おじいさんの体がだんだん冷たくなっていることに気づきました。

「たいへん・・・。早くあたためてあげないと!」

ひかりのこどもは、力をこめると、自分の体を つよくもやしました。


ゴー ゴー ゴー


それでも、なかなか、おじいさんの体は、あたたかくなりません。

みるみる、だんろの中の木は、もえてなくなっていきます。


ひかりのこどもは、木がなくなってしまうと、自分は きえてなくなってしまうことを知っていました。

それでも、おじいさんを助けようと、さらに強く、もえ続けました。

「おじいさん、おじいさん!」と何度もさけびながら。



ゴー ゴー ゴー



そして、ついに、だんろの中の木が、ほんのひとかけらになってしまいました。

ひかりのこどもの命も、きえようとしています。

「さいごは、おじいさんといっしょがいいな・・・」

小さくなってしまったひかりのこどもは、自分の力で、だんろから出て、おじいさんの横になんとかたどりつきました。


そして ひかりのこどもは、はじめて おじいさんに そっと ふれました。


「ぼくは、ずっと、おじいさんと手をつなぎたかったんだ・・・うれしいな・・・」





おじいさんと ひかりのこどもは、白いけむりとなり 手をつないで ほほえみながら夜の空にあがっていきます。



下を見ると、ランプのひかりが、たくさん またたいているのが見えました。



まるで、これからいっしょに行く、星空のような うつくしさでした。



「きれいだね。おじいさん」

「ああ、きれいだね。 ほんとうに、きれいだね」



                        おわり







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